叶わぬ恋の叶え方
それからまた咲子は坂井先生のお家に誘われた。今度も先生が咲子に夕食をふるまってくれた。

ガーリックのきいたボンゴレスパゲッティと温野菜のサラダ。それに白ワインを付けてくれた。

今回の料理も美味しい。けど、このメニュー。いかにも「今夜は帰しません」っていう感じだ。虫も殺さなさそうに見える坂井先生の、ヨコシマな意図を感じる。先生にお酒を飲まれては、帰りに車で送ってもらえない。

ほろ酔い気味の先生は鼻の辺りを赤らめて上機嫌だ。

こんな表情の先生は見たことない。

すっかりお酒が回った先生の代わりに、今夜は咲子が一人で片づけをした。彼女はそんなに飲んでいない。

片づけを終えた咲子リビングに行くと、先生がソファに座ってテレビを見ていた。

咲子は一言声を掛けて、彼の隣に座る。

先生が「ありがとう」と言う。

おもむろに彼が彼女の肩に手を回してきた。彼女は彼の肩にもたれた。

先生の体のぬくもりが頬につたわってくる。

自然に心臓の鼓動も速くなる。

「今晩。泊まっていってくれるよね」

先生が咲子にたずねる。

そうきかれると思っていた。

咲子は「はい」と短く答えた。

今夜のことを予想して、彼女はいわゆる「お泊りセット」を持ってきていた。それが27歳の大人の女の作法というものなのだろう。

「そうかい。君がうちに泊まっていってくれてうれしいよ」

そう言って坂井先生は咲子の髪に口付けをした。
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