叶わぬ恋の叶え方
「坂井恭輔先生はね、35歳で既婚。よその病院で皮膚科医をしている奥さんとの間に娘さんがいるそうよ。どこかの田舎の国立大学を出て、研修の後に勤務したのがこの市民病院なんだって。ねえ、既婚者って知ってガッカリでしょ?」
いきなりそんな問いかけだ。
「そりゃあ、その歳だったら結婚していてもおかしくはないでしょう」
「そうだけどさ、先生がもしも独身だったらこっちの気分も華やぐじゃない」
「華やぐって」
江波さんはもっと言いたいことがあるらしい。咲子にきかれもしないのに、まだ坂井医師の話を続ける。
「奥さんとはね、医学部時代の同級生だったそうよ。研修を終えてから、同じ市内に就職先を見つけて、結婚したそうよ。医者にしては若くして結婚したから、一人娘はもう小学校に上がったみたいよ。子供が一人しかいなくて、しかも女の子だったら可愛くてならないでしょうね」
しかし、病院の患者が何で医師のプライベートをそこまで知っているのだろうか。
確かにあの年代だったらそういう家族がいてもおかしくないし、あれほどの仕事に就く人なら彼に相応しい女性と結婚していて当然だろう。
咲子とは別の世界に住む人種の話だ。
プロフィールとか、結婚しているかどうかとか知ったところでどうだというのだろう。