叶わぬ恋の叶え方

「ところで丹羽さん。この前は高村さんに親切にしてくださったそうで、僕からもお礼を言います」

「ああ、高村さんですね」

咲子は入院患者の高村さんが病室に訪れてきた時のことを思い出した。

「彼は精神科と内科にかかっているんですが、内科については僕が担当しているんです」

「そうだったんですか」

確か高村さんは発達障害の他に心疾患を患っているはずだ。

「あなたからサインをもらったって言ってすごく喜んでおられましたよ。僕にもそのサイン入り色紙を見せてくれました」

坂井医師はそれが言いたくて咲子の隣に座ってきたのだろう。

「そうですか。それは良かったです」

「あなたは以前は芸能界でお仕事をされていたんですね」

「ええ、そうなんです」

江波さんと話した時とは違って、 今度はごまかさずに言った。何故だかわからないけど、この先生には昔のことを隠さない方がいいと思った。

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