叶わぬ恋の叶え方
「この前はすみませんでしたね」
先生は目を伏せていう。
伏し目がちな表情に胸がドキッとする。
「あなたはもうその仕事を引退されたから、今は一般人として暮らしています。正直ああいうふうに話し掛けられるのは迷惑でしょう」
「いえ。そんな迷惑だなんて、そんなふうには思いませんでした。それに先生が謝ることではないですよ」
「あなたは優しい人ですね」
先生はまた微笑んだ。
「あ、いえ。どうもないことですよ」
彼みたいな人に、そんなふうにかしこまって言われると恐縮してしまう。
「それより高村さん、私みたいなマイナータレントのことなんかよく覚えておられたと思いますよ」
「彼はずっとあなたのファンだったんですよ。『えれなちゃんのことはすぐにわかった。今でも可愛かった』って言ってましたよ」
「そんなことはないですけど……でも、うれしいです」
大して美人じゃなかったから、あの世界で生き残ることもできなかったし、薄物をまとう安いタレントだったけど、そんなふうに言ってくれる人がいるのはうれしい。
「彼とは数年来の付き合いなんです。丹羽さんが彼に親切にしてくれたことについて、主治医として僕からもお礼を言います」
「……はい、それはどうも」
まさか、喫茶室でこんな話になるとは。