叶わぬ恋の叶え方
咲子は忘れかけていた昔のことを思い出した。
高校生の頃、クラスメートと東京に行った時に路上で芸能事務所にスカウトされた。
高校を卒業するのと同時に、親の反対を押し切って上京し、事務所の寮に住み込んだ。
でも、田舎からポッと出てきた娘にそんないい仕事があるわけもなく、事務所の電話番をする毎日が続いた。やっと仕事の依頼が来たと思ったら、複数の女の子たちと一緒に水着姿で深夜のお笑い番組に出るという内容だった。
同期の女の子の一人は出世して、今では連ドラの脇役をやっている。彼女もデビュー当時は、咲子みたいに田舎から出てきた垢抜けない娘だった。持っている素養は咲子のそれとそんなには変わらなかった。
でも、彼女は売れるために何でもした。顔の造作を変えたし胸にシリコンも入れた。スポンサーを相手に人には言えないような接待もした。
とてもじゃないけど咲子にはそんなことはできなかった。スカウトされた当初はそんな話は聞いてなくて、事務所からはおいしい話だけ聞かされていた。
憧れていた世界は虚飾の世界だった。でも、子供だった自分にはそんなことを知る由もなかった。
事務所を辞めた後、今の仕事を探すのも大変だった。母親が言うように、大学ぐらいは出ておけば良かった。