叶わぬ恋の叶え方
それからしばらくして、坂井医師が回診をしに咲子の部屋にやってきた。
いつもの白衣姿で颯爽としている。
咲子の体調について話した後、彼はいつもよりさらに温かい笑みを浮かべてきいてきた。それは仕事上作っている表情ではなく、本心からのものだった。眼鏡の奥に見える目が優しげだ。
「聞きましたよ。また、高村さんとお話ししたんですってね」
「そうなんです。食堂で声を掛けられました。私にも『戦国新幹線』の構想をお話ししてくれましたよ」
咲子も笑みを浮かべて相槌を打つ。
「ああ、あの話ですね」
「先生は彼の作品を読まれたことがあるんですか」
「彼は小説なんか書いていませんよ。構想を練ってネタ帳を書くのが楽しいだけで、実際には書かないんです。自分の世界を誰かに話すのが楽しいんですよ」
「そうだったんですか」