叶わぬ恋の叶え方
「丹羽さんは明日退院ですね」
医師が話題を変える。
「はい。先生のお陰で元気になりました。どうもありがとうございました」
「こちらこそ、丹羽さんにはお世話になりました。高村さんに素敵な思い出をくださってありがとうございました。あなたの優しさにとても感謝しています」
坂井医師が再びを顔を上げて、いつもの笑みを浮かべる。
「そんな大層なことしてませんて。私はただ雑談していただけですよ」
「いえ。あなたは優しい女性です。高村さんは本来、現実の女性が苦手ですからね。女の人の中には、彼のような人を煙たがる人がいますし」
「私は高村さんをいい人だと思います。彼は、私の名前をいい名前だと言ってくれました」
「ええ、わかりますとも。彼はいい人なんです。それがわかってくれてうれしいです」
坂井医師の笑顔がますます輝く。
その顔を咲子はまぶしい思いで眺めた。
うれしいようなこそばゆいような、なんとも言えない感情が胸の中に広がる。
この笑顔をずっと見ていたいと思ってしまった。一瞬。
そんなことは叶わぬ願いなのに。
咲子は明日、晴れてこの病院を退院する。
ここを出たら、二度と先生と会うことはないだろう。