叶わぬ恋の叶え方

「いえいえ。見つかって良かったです。近い内に、仕事帰りにでもお近くまで寄ってあなたに届けに行こうと思います」

思わぬ提案が飛び出した。

「それはさすがに申し訳ないですよ! 私が忘れたんですから、私が病院まで取りに行きます」

「そうですか」

「はい。お仕事帰りにわざわざ来ていただくなんて申し訳ないです。傘はしばらくナースステーションに預けておいてくださればいいですから」

なんて親切な人なんだろうと思った。もしも先生が独身だったら、家の近くで待ち合わせをして会ってもいいかもしれない。いや、きっとそうしたくなるだろう。

でも、彼はああいう立場の人なのだ。忘れようとしている相手に、わざわざ会う機会をもうける必要なんてない。

「そうですね。丹羽さんにもご都合がありますから、好きな時に取りにこれる方がいいかもしれませんね。わかりました。傘はナースステーションに預けておいて、職員にはあなたが取りにくることを言っておきます」

「ありがとうございます」

咲子は丁寧に礼を言って電話を切った。


まったく、最近心臓に悪いことばかり起こる。

何でだろう。日頃の行いが悪いのだろうか。これじゃあ、お宮参りをした意味がない。


だけど、ここまで予防線を張っているのに、運命のいたずらは咲子にまだちょっかいを出したいみたいだった。後日、咲子は坂井先生とまた顔を合わせてしまったのだ。

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