叶わぬ恋の叶え方

次の週末、咲子は久しぶりに市民病院の内科に顔を出した。お世話になった看護師たちが咲子の調子をたずねてくれた。

もちろん、坂井先生に会うつもりはなかった。ナースステーションの受付から傘を受け取って、そのまま帰るつもりだった。

受付の職員は咲子に水玉模様の傘を渡した。持ち手の部分に札が付けられていて、咲子の苗字が書かれている。咲子は職員のはからいに礼を言った。

「ちょっと待ってください。今、こっちに坂井先生が戻って来られますから、挨拶されたらどうですか」

職員が咲子を引き留める。

「でも、先生、お忙しいでしょう」

せっかくだけど、消極的な理由で先生の顔はもう見たくないのだ。

「先生は今日はこれで上がりなんですよ。主治医の先生だったんだし、忘れ物も届けてもらったんだし、ちょっとお話ししていかれたらいいじゃないです」

笑顔で言う彼女の言葉は確かに筋が通っている。こういう場合、彼にお礼を言うのがマナーである。

「お急ぎなんですか」

「いえ、そういうわけではありません」

「じゃあ、ちょっと待っていてください」

「はい」

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