叶わぬ恋の叶え方
結局、咲子は徳森に誘われるまま、彼に指定された日時に、最寄り駅のロータリーにいた。彼が車で拾ってくれることになっている。
いきなりドライブデートなんてちょっと進度が速いだろうか?
でも、咲子ももう27だし、誰かいい男の人がいたらお付き合いをしたいと思う。入院中、隣のベッドにいた江波さんだって言ってたじゃないか。あなたならまだまだこれから良い人に巡り会えるわよって。
もしかしたらこれがその出会いなのかもしれない。
こんなことなら、ラインで徳森のことが噂になっていた時に、もっと話を聞いておけば良かった。
当時、付き合っていると言われていた経理部の彼女とはどうなったんだろうか。ちょっと軽い風貌だけど、まさか二股を掛けようとしているわけじゃないだろう。 後でそのことについても確認しておかないと。
待ち合わせた時間ぴったりに、教えられていたとおりのスポーツタイプの車が横付けされた。徳森の愛車だ。
彼に促されるまま、助手席に座った。
車に乗ること自体、何年ぶりのことだろうか。首都圏に住んでいると、公共交通機関を利用すればいどうには十分事足りる。
「結構、すごい車に乗っているんですね」
咲子がたずねる。
「ああ、これ? マツダのRX-8ゆうねん。かっこええやろ?」
「ええ。それに高そう」
「確かにこれ、高うついたでぇ。このエイト様を買うために、俺、社宅に住んで昼は吉牛とかで我慢してん」
昔と違って今時の若者は車離れになっていると聞くが、徳森の場合はドライバーの仕事をしているだけあって、車好きなのだろう。