叶わぬ恋の叶え方
「徳森さんは何で大阪を離れてこっちに就職したんですか? 関西人って結構地元志向じゃないですか。地元に何でもあるから、わざわざ外に出る必要がないっていうか」
「何でやろなぁ。友達がこっちに来てたから、何となく俺もって思ったのかもしれへんなぁ。お袋がこっちの人やし。そういう丹羽さんは?」
「私?」
「うん」
「私は……就職するためにこっちに来たの。親戚の伯父さんが就職口の面倒見てくれて」
「へえ、ええ伯父さんやな」
「うん」
咲子は芸能活動をしていたことには触れなかった。やっぱりあんな女の黒歴史みたいな過去を話すことなんかできない。だって芸能人としての咲子は、単なる薄物をまとったB級アイドルだったから。
思えば、あの時坂井医師に自分の経歴を素直に話したのは不思議なことだった。
でも、今みたいに自分のことを気に入って近づいてきた男の人に、あんなカッコ悪い過去を話すことなんかできない。
「じゃあ、学校出てからずっとうちの会社に勤務してるの?」
「ううん。高校出てからはずっとフリーターみたいな感じ。不安定だったんだよ、私。だからうちの会社に就職できて本当にラッキーだったの」
咲子は大きな嘘はつかない程度に話をごまかした。
「ふーん。そっかぁ、俺もこの仕事が二つ目やからな。お互い色々あったんやなぁ」
徳森に咲子の内心など知る由もない。