叶わぬ恋の叶え方
「丹羽さん、お久しぶりです」
先生はあの時と同じ穏やかな声で言う。
「お、お久しぶりです」
「またここで会いましたね。お元気でしたか」
「お陰様で元気です。先生は?」
「僕も元気ですよ。仕事は相変わらず忙しいですけどね」
「それは何よりです」
咲子は改めて目の前の男の人を凝視した。
坂井先生がいる。
いきなり目の前に現れるなんて、先生ってなんて神出鬼没な人なのだろうか。
病棟で最後に彼に会ってから、かれこれ一年以上経っていた。
あの時と少しも変わらず、彼はちょっとハンサムで、穏やかな空気を漂わせている。
「先生は今日は娘さんのピアノのお迎えですか」
以前に会った時、彼はこの近くのピアノ教室に通う娘を迎えにきていた。
この境内で、彼を追ってやってきた娘と出くわし、咲子は複雑な気持ちになったものだ。
「いや、娘はもうピアノはやめましたよ。今彼女は体操教室で忙しいんです」
「じゃあ、今日はお一人ですか」
「はい」
じゃあ、こんな時期にここへ何をしにきたのだろうかと咲子は思った。