叶わぬ恋の叶え方


あの市立病院を離れたら、高村さんは誰に自分の話を聞いてもらうのだろうか。新しい病院には彼の話を聞いてくれる職員はいるのだろうか。

そもそも、重篤な状況に陥った彼におしゃべりをする気力がまだあるのかどうかはわからないが。

「彼に対して僕らにできることは祈ることしかないですよね」

 先生が言う。

「はい。そうですね」

 確かにそうだと思う。

 こんな時はただ祈るしかない。

 彼の回復を願って。

 彼は咲子とその分身に対して好意的だった。

 だから咲子は彼の回復を心から祈りたいと思った。


「先生は一の宮によく来られるんですか」

 咲子が気になっていることをたずねた。

「はい。娘のお迎えをしなくなってからも、ここにはたまに来ますよ。癒されたい、と思いましてね」

「癒されたい?」

「はい。この数ヶ月、癒されたいと思うような心境でしてね。以前に、丹羽さんとあそこでお会いした時に、あなたは癒されにきていると言っていたでしょう。僕はあなたの言葉を思い出して、神社に行ってみたんですよ」

「私の話を覚えておられたんですね」

「はい。確かに、あそこに行くと清々しい気分になりますよね。特に、あの大きな楠の下にいると癒しのパワーをいただける気がしますね。あなたがあの木を気に入っている理由がよくわかりましたよ」
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