叶わぬ恋の叶え方
「じゃあ、娘さんとは同居しておられないんですか」
「そうなんです。娘は妻が引き取りました。二人は今、市内のマンションで二人暮らしをしています。やっぱり子供は女親に一緒にいてほしいみたいですね」
離婚をしただけでなく、愛娘と離れて暮らすようになったのなら、それはたいそう寂しだろうと咲子は思った。そりゃあ、癒しを求めたくもなる。
「びっくりしましたか」
先生がたずねる。
「はい。驚いたというより残念です」
「残念!?」
赤の他人の離婚が残念だなんて言ったら、先生は妙に思うだろう。
「はい。先生が離婚してしまったとはショックです。私は先生には円満な家庭生活を送り続けてほしかったです。だって、うち父親も家を出ていきましたから。それを思うと、よそのお家は幸せであってほしいなって思うんです」
咲子は正直に言った。
「そうだったんですか。お父さんは丹羽さんが小さい頃に出ていってしまったんですか」
「いえ。私が高校を出て上京してからですから、私にはあんまり影響がなかったんですけどね。元々私が家にいた頃から、夫婦はすれ違っていたみたいなんですけど、私と弟が学校を出るまで待とうと思っていたみたいですね」
「そうですか。……僕らは娘がまだ小学生だってのに別れてしまいました。あなたのご両親に比べると、堪え性がなかったのかもしれません」
先生はそう言うけど、咲子は人様の家の事情をあれこれ訊くつもりはない。何故別れてしまったのかなんて、この程度の関係の人にたずねる気はない。だから何も言葉を継がなかった。