叶わぬ恋の叶え方


 だけど先生は自分から身の上話を続ける。

「僕らはね、同士みたいな夫婦だったんです。妻……元妻とは医学部で同級生だったんです。最初、彼女は同じ学部にいた僕の親友と付き合っていたんです。二人は結婚の約束まで取り交わしていたんですけどね、インターン時代に彼がアメリカに留学してしまったんです。それ以来、向こうに居ついてしまって、彼は結局帰ってこなかったんですよ。彼女はそれはショックを受けていました。だから、親友の抜けた穴を埋めるっていうのも変なんですけど、僕が彼女と、元妻と付き合うことにしたんです。お互い、性格の波長が合いましたしね、そのまま結婚もすることにしました」

先生と奥さんが医学部の同級生だったことは江波さんから聞いていた。同室の江波さんは大した情報通だった。

「それが今になって彼女の方から別れてほしいなんて言ってきたんですよ。子どもだっているのに、一体全体どうしてそんなことを言い出すのか、僕はわけがわからなくって……。他に好きな男でもできたのかとたずねても、そうではないと答えるんです」

「奥様は別れたい理由を言ってくださらなかったのですか」

「いや、言いましたよ。でも、言われたその言葉に僕はショックを受けたんです。彼女は言いました。好きでもない男と暮らしていることを欺瞞に感じるようになったってね。あなただって親友のしたことの償いをしてるだけでしょう?って言ってました。もう私に義理を感じて縛られる必要はないわよって。とてもショックでしたよ。彼女が僕のことをそんなふうに見ていたなんて」

正直、咲子は彼の話にどう返していいかわからなかった。

あの穏やかな先生が一人語りをするなんて。
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