叶わぬ恋の叶え方
入院3日目、咲子の部屋をある患者が現れた。
長期入院患者の高村さんだ。彼は発達障害を抱えていて、年齢は30前後だろうか。
同室の主婦の話によると、どうも家族には見捨てられたようで、障害者年金を受給して入院生活を送っているらしい。発達障害の他にも重篤な心疾患を併発していて、この総合病院の内科と精神科の双方にかかっている。
高村さんは売店で咲子を見かけて、後をついてきたのだという。彼女の病室を確認してから、思い切って訪ねたそうだ。
「いやー、こんな所でえれなちゃんに会えるなんてうれしいなぁ。僕、『ミニスカナース』の頃からずっとファンだったんだよね。サインをくれませんか」
高村さんがうれしそうな顔をしてたずねる。
「えれなちゃんがいるってわかって、これ売店で買ってきたんだよね」
最近の病院の売店では寄せ書き用の色紙まで売っている。彼はそれと黒のマジックを咲子に渡した。
隣のベッドから、50代の主婦、江波さんが怪訝な表情を浮かべて二人の様子を見ている。