叶わぬ恋の叶え方
ところが食堂でのガールズトークから数日後のある日、咲子の家に坂井先生から電話があった。噂をすれば何とやらである。
その夜。仕事を終えた咲子はアパートの部屋に戻ってきたばかりだった。
これから、かんたんに野菜炒めでも作って夕食で食べようとしていた。
エプロンを着けて、狭い調理台にまな板を置いたところに電話がかかってきた。
「もしもし。坂井ですけど、この前はどうも」
先生が電話をかけてくるのは、一の宮に傘を置き忘れた時以来だ。今度は何の用だろうか。
先生は先日、咲子が自分に付き合ってくれたことにお礼を言った。もしかしてもしかすると、意外にも彼は咲子に執着しているというわけなのだろうか。
でも、期待のしすぎは禁物だ。
「ところで丹羽さん。明日の夜、時間はありますか」
先生が本題に入る。
「明日の夜ですか。仕事はいつもどおりに終わりますけど、何時くらいですか?」
咲子の胸が高鳴る。
もしかしてもしかする?
「7時です。あの、高村さんが今日亡くなったんです。循環器病センターの方から僕の所に連絡がありました」
「え、高村さんが!」
「はい。明日の晩がお通夜です。あなたにそのことを告げたくて、またナースステーションであなたの電話番号を調べたんです。もし良かったら丹羽さんも一緒に出席してくれませんか?」
「はい。行きます! お通夜はどこでやるんですか」
即答した。
咲子の問いに、先生は葬儀が営まれる寺院の名前と住所を告げた。