叶わぬ恋の叶え方
心のYES!

 高村さんの通夜は市内の寺で営まれた。

 咲子は通販で買った安い喪服を着て、現地で坂井先生と待ち合わせをした。

 会場には病院関係者と思しき人々が参列していた。葬儀にしては参列者の数が少ない。

 疎遠だと聞いていた彼の家族は、ここに来ているのだろうか。喪主は誰なのだろうか。

「高村さんのお家で式をするわけではないのですね」

 咲子が坂井先生にたずねた。

「高村さんのご家族は彼を見放したんですよ。せめてお葬式ぐらい家族が出してあげてほしいのですが、彼らはそれさえもしたくないようなんです。もともと経済的にも苦しいご家庭のようで、重病の彼のことは一切関知しないんです。今日の式はボランティア団体の厚意で営まれると聞きました」

 先生が静かな声で答える。

 彼もまた黒い喪服を着ている。喪服姿の先生にはまた違った印象を受ける。

「いくらお金がないといっても、実の息子でしょう?」

「丹羽さん。世の中には色々な人がいるんですよ。僕は病院で働いてきましたが、患者さんやご家族とのお付き合いの中で理不尽なこともずいぶんと見てきました」

「そうですか」

 咲子だって二十歳の頃にはずいぶん特殊な世界にいて、汚いものも目の当たりにしてきた。でも、そこでは概ね他人が赤の他人を傷つけていた。同じ血を分けた親子のそんな空しい話までは聞いていない。

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