林檎が月をかじった夜に
月は雲に埋もれていました。
あのリンゴに食べられたせいで、切りはなされた爪ほどの大きさしかありません。
「こんばんは、お月さま。あなたを助けにきたの」
エンが言うと、月は泣き声を大きくします。
「うそよ。みじめなワタシを、笑いに来たんだわ」
そして、よけいに雲に埋もれるのです。
エンは困ってしまいました。リンゴがどこに行ったか聞きたかったのに、これではとても無理なようです。
こんなときこそ、モヘの出番です。
「やあやあ、言うまでもなくきれいな女王さま。
あなたの涙は僕らの涙。あなたが瞳をくもらせるなら、僕らは何も見えやしない。
ああ、でも何故だろう、分からない。新しい輝きを手に入れて、どうしてあなたは泣いている。
おろかな僕はこんなにも、あなたの瞳に映りたいのに!」
まるで魔法の呪文のようでした。
モヘの言葉に、エンはこそばゆいやら、あきれるやら。
でも、月は喜んだようです。泣くのをやめて、ゆっくりと雲から抜け出したのです。