林檎が月をかじった夜に





 月は雲に埋もれていました。

あのリンゴに食べられたせいで、切りはなされた爪ほどの大きさしかありません。



 「こんばんは、お月さま。あなたを助けにきたの」


エンが言うと、月は泣き声を大きくします。


「うそよ。みじめなワタシを、笑いに来たんだわ」


そして、よけいに雲に埋もれるのです。




 エンは困ってしまいました。リンゴがどこに行ったか聞きたかったのに、これではとても無理なようです。



 こんなときこそ、モヘの出番です。




「やあやあ、言うまでもなくきれいな女王さま。

あなたの涙は僕らの涙。あなたが瞳をくもらせるなら、僕らは何も見えやしない。

ああ、でも何故だろう、分からない。新しい輝きを手に入れて、どうしてあなたは泣いている。

おろかな僕はこんなにも、あなたの瞳に映りたいのに!」




まるで魔法の呪文のようでした。


モヘの言葉に、エンはこそばゆいやら、あきれるやら。




でも、月は喜んだようです。泣くのをやめて、ゆっくりと雲から抜け出したのです。
< 12 / 28 >

この作品をシェア

pagetop