林檎が月をかじった夜に
「エン、楽しかったよ!
またいつか、いっしょに冒険をしよう!」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!
僕、お月さまに、ちゃんとごめんなさいって言うからね!」
これが、
最後に届いてきた声でした。
あとは、もう、風のうなり声しか聞こえません。
のぼっていったときとは違う冷たい風が、髪の毛と寝巻きを膨らませます。
落ちているというのに、不思議と気持ちの良いものでした。
エンは、大きく息を吸い込みました。
水平線の向こうの、そのまた向こうの空が、うっすらと白んでいます。
それを見るエンの目は、キラキラと金色に輝きます。
まだ夜の深い海は、静かに星空をうつしています。
空からは、いろいろなものを見ることができました。それがみんな、きれいなのです。
(ああ、私、朝と夜を一緒に見ているのね。とてもすてき!)
やがて、エンの家が見えてきました。桟橋もあります。
どうやら、このままいくと、エンは家の屋根に落ちるようです。
きっと、とても痛いでしょう。
景色を楽しむのもそろそろおしまいです。
エンは、きつく目を閉じました。