林檎が月をかじった夜に
窓の外には小さな庭があるだけです。桟橋も、虹色の海も、どこにも見当たりません。
「本当なの。本当なのよ。ここには桟橋があったの」
必死でうったえるエンに、パパは優しく笑いかけます。
「うん、本当だとも。
人間はね、一度しかできない冒険を、たくさんするものさ。
パパは子供のころ、逆さまになった柱時計を冒険したことがあったよ」
ママが、エンにふんわりと上着をかけます。
「今日は風が冷たいわ。さあ、窓を閉めて、あたたかいミルクを飲みましょう。
ぐっすり眠れるわよ。おばあちゃんから、ミルクにかけるおまじないを教わったの」