林檎が月をかじった夜に
エンは桟橋の先まで走って、途方にくれてしまいました。
月はまだまだ、遠いところにあります。
高さも足りないようです。
海は近くで見ると透き通っていますが、とても深そうです。エンは泳ぐのが苦手でした。
「やあやあ、銀色の髪のかわいいお嬢さん。はだしで何を困っているの?」
元気な声で言ったのは、しっぽが二本ある猫です。
コハク色のその猫は、大きなこうもり傘を持って、エンのうしろに立っていました。
「よかったら、ちょっと旅をしませんか?
僕といっしょにあの月へ、リンゴを狩りに出ませんか?」
これは願ってもないことですが、エンは用心するふりをします。
「知らない人にはついていけないの、私」
猫はウインクして答えます。
「僕の名前はモヘ。みんなが知っている、ただの猫さ。
君も、猫のことなら知っているよね?」
エンは猫の名前が気に入ったので、一緒に行くことにしました。