林檎が月をかじった夜に








 エンは桟橋の先まで走って、途方にくれてしまいました。




 月はまだまだ、遠いところにあります。


高さも足りないようです。


海は近くで見ると透き通っていますが、とても深そうです。エンは泳ぐのが苦手でした。






 「やあやあ、銀色の髪のかわいいお嬢さん。はだしで何を困っているの?」


元気な声で言ったのは、しっぽが二本ある猫です。


コハク色のその猫は、大きなこうもり傘を持って、エンのうしろに立っていました。



「よかったら、ちょっと旅をしませんか?

僕といっしょにあの月へ、リンゴを狩りに出ませんか?」



これは願ってもないことですが、エンは用心するふりをします。



「知らない人にはついていけないの、私」


猫はウインクして答えます。


「僕の名前はモヘ。みんなが知っている、ただの猫さ。

君も、猫のことなら知っているよね?」




 エンは猫の名前が気に入ったので、一緒に行くことにしました。
< 5 / 28 >

この作品をシェア

pagetop