チェンジ type R
 お互いに無言の状態が続く。
 何も返せないし、何も言葉を続けることが出来ないのだ。

 隼人くんは私の質問に反撃するのが精一杯で、言い返したっきりでその後の言葉が続かない。

 私は隼人くんのその言葉に、返す適当な言葉が見つからない。
 どう説明すれば良いのか、どうすれば納得させることが出来るのか。
 いや、隼人くんを納得させる以上に……どうすれば自分が納得の行く結論を出せるのかすらも見当が付いていない。

 何も語るべき言葉が出て来ないような気がした。
 しかし、それも違う……一つ思い浮かんでいることはあるのだ。
 ただ、明確な思考にすることは避けていたいだけなのだ。

 その思考とは……ここにいる隼人くんは、ひょっとして助けを求める私が生み出した『幻覚』ではないか、と。
 これを明確に思い浮かべれば……それは隼人くんに伝わるだろう。
 だからこそ、隼人くんに伝わってしまわないように、ハッキリとした形で思考することを避けていた。

 だって……それを私が認めてしまえば、もしも本当にここに居る隼人くんが幻覚ならば……この目の前にいる隼人くんが消えてしまう――そんな恐怖があったのだ。
 しかし、『本物……だよね?』、私はそう問いかけてしまった。
 もう取り返しのつかない所にまで自分で流れを進めてしまったのだ。
 先へ進むためには……もう、目の前にいる隼人くん本人に私の『疑問』をぶつけるしかない。
 そうすることでしか、私の中に育ってしまった疑惑は消え去ることが無いのだ。
 
それが……ひょっとしたら……隼人くんと離れてしまうことになるとしても。
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