チェンジ type R
第九章
 どういう形で、この隼人くんとお別れになるのか……。
 瞳を逸らすことなく、固唾を呑んで見守る。
 バスの中に居るはずなのに……周囲の音さえ聞こえなくなっている。
 私の神経は……これから消えてしまうであろう隼人君に注がれていた。

 ほんの僅かな時間とはいえ、私を助けてくれた幻覚の隼人くん――。
 例えそれが幻覚であろうとも、私は彼に好意を抱いていた。
 彼と共に居るだけで感じる、絶対的とも呼べる安心感……それが何よりの証拠だろう。

――お別れしたくはなかったな……。

 隼人くんを見つめながら、そう思った瞬間にスッと隼人くんが顔を上げた。
 口を横一文字にキュッと結んで、何かを決意したような表情だ。
 私に別れの言葉でも述べてくれるのだろうか?
 きっと、別れ難いと思っている私の意識の深層は……隼人くんからの決別の言葉を望んでいるのだろう。

 その様子を見守る私。どんな最後になるのか、と。
 もう、何もかける言葉が見当たらない。
 せめて……このまま消えていく最期の瞬間まで、ずっと隼人くんを見続けていよう。
 強くそう思う。

 隼人くんは、きっと自分が幻覚だということを認め、私がそのことに気が付いてしまったことでスゥーっと消えて……。
 スゥーっと……って。

 あれ?

 スゥーっと……スゥーっと……スゥーっと……消え……あれれ?

 ………………消えないね?
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