負け犬も歩けば愛をつかむ。
□負け犬にジュエリー
「いらっしゃいませー」
「ありがとうございます。またお越しくださいませー」
マニュアル通りの、少々怠そうな店員の声が投げ掛けられる、午後八時のコンビニ。
いつもの安い発泡酒ではなく、ちょっとリッチなビールを手に取った私はお惣菜コーナーの前で立ち止まり、お弁当を品定めする。
牛丼かぁ……。最近食べてないし、この“牛肉ボリュームUP”という文字に心が惹かれる。
特に深く考えずそれに手を伸ばした私は、あることに気付いてちょっと待てよ、と動きを止めた。
……今日の店員の男のコ、かなりイケメンなのよね……。
レジの前にいる今時のイケメン君を盗み見ていた目線を、自分の姿へと向ける。
Tシャツにグレーのパーカーを羽織り、緩いチノパンを履いた、色気ゼロの通勤姿。
仕事中に被っている帽子のせいで乱れたボブの髪の毛に薄い化粧。しかもそれはだいぶ崩れている。
どう見ても仕事終わりの疲れたアラサー女だ。
こんな私が缶ビールにボリュームアップした牛丼なんて買っていったら、“この人おっさんか!”と心の中でつっこまれるのがオチじゃないだろうか。
そんな想像をすると、牛丼に伸ばした手は勝手に隣の“ふわとろ卵のオムライス”にスライドしていたのだった。
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