負け犬も歩けば愛をつかむ。
「こういうもの冷凍するのは家だけにしてくださる? せめていつのものか日付ぐらい書かないとダメよ! もう~嫁も何でも冷凍すりゃいいと思ってるんだから」

「す、すみません……」



ちょいちょいお嫁さんのグチを挟みながら、その後も予想外の細かい所を指摘された。

皆はなるべくオバサマと目を合わせないようにして黙々と手を動かしているし……なんか私だけ餌食になったような気分。



「この戸棚の扉も閉まりが悪いし、ここから虫とかが入ったらどうするの? ん?」



あ~んもう、助けて椎名さぁん!

今日は総会でどうしても来れないという彼に、私は終始心の中で助けを求め続けるのだった。



そうしてなんとか厨房の巡回は終わったものの、私はまだ気が抜けない。むしろここからが山場だろうか。

座り心地の良い応接用のソファーに腰を下ろした私とオバサマの前には、長い足を組んで座る麗しき専務。

指導員からの評価は彼に伝えられるため、私も専務室に呼ばれているのだ。

オバサマはさっきの嫌みったらしい感じから一変し、目をハートにしながら専務と話している。



「私が目に付いた所はそのくらいですわ」

「わかりました。すみませんね、至らない点が多くて」

「いぃえ! 決して専務様のせいではありませんわ!」



眉を下げて申し訳なさそうにする専務の手をギュッと握りしめるオバサマ。独り舞台でもやってるのかこの人は。

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