負け犬も歩けば愛をつかむ。
「……そうですよ、皆よくやってくれています。今回の監査のことは私の注意が至らなかったせいで、私の責任なんです。だから、一生懸命働いてる皆のことをそんなふうに言うのは──」

「そういうのが嫌いなんだよ」



私の言葉を遮り、酷く冷たい専務の声が吐き捨てられた。

同じように冷え切った彼の表情は、美しすぎる余りにとても恐ろしくて、思わず口をつぐむ。



「今、君は『私の注意が至らなかったせい』だと言ったが、裏を返せば、君が指図しなければ他のメンバーは何も出来ないということじゃないか? “皆は一生懸命頑張ってる”なんていう、生温い仲間意識を美徳のように思ってもらっては困るね」



は、はい……!?

専務の予想外過ぎる返しに唖然とする私。

まったくそんなふうに思ったことなかったですけど!



「……専務には、部下を思いやる気持ちってものはないんですか?」

「人によるな。きちんと仕事をこなしてくれる者にはそれなりの対応をしているよ。僕は好き嫌いが激しいんでね」



それはよーくわかりますけども……。

あぁ、だから水野くんのことはバッサリ切り捨てようとしたのか。

それまで私達にいい顔をしていたのは、きっと何も問題を起こさなかったからなんだろう。



「でも、よくそれで社員がついてきますね」



少しの皮肉を込めて言ったものの、彼は余裕の笑みを浮かべる。

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