負け犬も歩けば愛をつかむ。
「お世話になっております。何かご用でしょうか?」

「えぇ、さっき会議で提案があったんですが……」



一旦言葉を区切り、私達を意味ありげに見る専務に、なんだか嫌な予感がする。



「来月我が社の創立二十周年の記念パーティーが行われるんです。その時の料理を、あなた方にお願い出来ないかと。ケータリング等ではなく、スルスの皆さんがメニューを考案し調理したものを」



記念パーティーの料理を私達が……? しかもメニューまで考えろって!?

そんな大きなイベントなら、普通はホテルや専門の会社にケータリングを頼むものじゃないの?
それをたかが社員食堂の調理員に一から任せるなんて異例よ! ていうか責任重大じゃない!

これにはさすがの椎名さんも驚いたようで、少し目を見開く。



「スルスのメンバーが、ですか?」

「そう。春井さんが言うには、彼らは大変有能な社員のようですから、ぜひ我が社以外の重役方にも腕前を披露していただきたいと思いましてね」



専務は私に流し目を向け、何か悪巧みしていそうな笑みを浮かべた。


……この人、私達にはお偉い様方を喜ばせるものなんて作れないだろうと思って、こんな提案をしているに違いない。

それで、失敗した暁には私達に何らかの罰を与えようとしているんだ。本当にあくどいんだから!


でも、ナメられているのは許せないけれど、こんな荷が重すぎる要求には簡単に応えられない。

椎名さんはどうする……?

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