負け犬も歩けば愛をつかむ。
私の斜め後ろにいる椎名さんを見やると、少し思案した彼は浅く頷いた。



「わかりました。本社の判断を仰ぎ、スルスの皆の了承を得てから正式にお返事させていただきます」

「お願いしますね。ただ、もしやるとして満足出来ないものを提供した場合、それなりの処置を取らせてもらいますがいいですか? ──椎名さん、あなたに」



や、やっぱり!!

口元にだけうっすら笑みを作る専務を、私はまた睨みつける。

やることが汚いわよ!と、文句が喉元まで出掛かったその時。



「納得出来ないものをお出しするつもりはありません。やるからには成功させます、必ず」



まっすぐ専務を見据え、椎名さんは力強く言い切った。

頼もしいその言葉に、逃げ腰になっていた私の気持ちも奮い立つ。

もしやるとなれば、“出来るかな”なんて弱気なことは言っていられない。必ずやらなければいけないのだから。

でも椎名さんがいれば、専務がどんな無理難題を言おうと、こなせそうな気さえした。


専務は若干表情を引き締めて「期待していますよ」と言う。

あぁもう、なんだか息が詰まりそう。早く立ち去ってもらいたい……と願っていると。



「春井さん、ちょっといいかな?」

「へっ!?」



専務が小首をかしげて、私にキラキラスマイルを向けている! まさかの呼び出し!?

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