負け犬も歩けば愛をつかむ。
「ああああの、いや、私今からゴミを捨てに行くので……!」

「すぐ済むから、ほら来て」



ゴミ袋を持ち上げてみせるも、私に近付いた専務は強引にぐいっと肩を抱き寄せる。



「ちょっ──!」

「僕の言うことは聞く約束だったよね?」



抵抗しようとした私の耳元で悪魔の声が囁いた。

カチリと固まる私の肩を抱いたまま、専務は廊下へ繋がるドアを開ける。

やめて~! 椎名さんに誤解されたら困るのに!!

泣きたい気分で廊下へと連れ出される私の目に一瞬映ったのは、呆然と私達を見る椎名さんの姿だった。



「もうっ、何ですか!?」

「何って、彼に見せ付けるために決まってるだろう」



ドアが閉まった瞬間、すぐさま専務の腕を振り払う私に、彼はあっさりとそう告げた。

眉を八の字にしながら睨むと、彼は顎に手をあてて満足げに微笑む。



「いいね、その顔。記念パーティーでもお目にかかれたらいいんだが」

「……本当に悪趣味ですね。無理難題を押し付けて、椎名さんに責任を取らせようとするとこも」

「彼も自信があるようだからいいじゃないか。断るならそれまでだと思ったが、やる気だけはあるようだから楽しみにしているよ。負け犬の君達が、どこまで噛み付いてこれるか、ね」



憎らしい笑みを残して、専務は食堂の隣にある休憩コーナーへ向かって歩いていく。

人を見下した言い方しか出来ないのかしら、あの人は……。

スーツのポケットに手を入れ、颯爽と去っていく彼の後ろ姿を恨めしく見送り、私はゴミ袋をむんずと掴んだ。


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