負け犬も歩けば愛をつかむ。
「あっ、もうこんな時間! ほら皆、仕事仕事!」

「千鶴ちゃん……」

「椎名さん、記念パーティーのことはまた打ち合わせしましょう!」

「あ、あぁ」



突然忙しなく食器を集めて立ち上がる私を、椎名さんは不思議そうに見上げる。

私の気持ちを察している皆は、少し心配そうにしていた。

諦めたくないなんて言ったけれど、やっぱり心は折れそうになる。この間のキスも、所詮愛のないものだし。

私の独り身生活に、まだまだ終わりは見えないか……。



「あー、これだから負け犬って言われるんだ……」



厨房に戻り、食べ終わった食器を入れたシンクに両手を付いてうなだれた。

椎名さんに近付く以前に、私の恋が実る可能性は限りなく低いですよ、専務……。

これ以上あの人にバカにされないためには、とりあえず記念パーティーを成功させるしかないわね。

そう、今の私は仕事を頑張るしかないのだ。



「ちくしょー! やってやる!!」



半ばヤケになりつつ、握った拳を上に上げると。背後からコソコソと話す真琴ちゃんと水野くんの声が聞こえてくる。



「泣いちゃうかと思ったけど……なんか逆に気合い入ってるね」

「さすが、アラサーは神経太いな」



真剣に言う二人に、私はそろりそろりと上げた右手を下ろすのだった。


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