負け犬も歩けば愛をつかむ。

やってやる!……とは言っても、パーティーに出せるようなメニューはなかなか思い付かない。

特別な場なのだから、高級感や非日常的な気分を感じられるものにしなければいけないはず。

例えば結婚式の料理なんかが近いのだろうけど、ビュッフェとなるとまた違うし。

普段そんなお高い料理を食べ慣れていない私達には、メニューを考えるなんてやっぱり難題だ。

今度ホテルのバイキングにでも行って勉強しようかな……。


そんなことを考えながら一人残業していた私は、事務を終えて時計を見上げると、すでに七時になろうとしていることに気付く。

うわ、もうこんな時間!

急いでパソコンの電源を切り、着替えを済ませてスルスを後にした。



エレベーターを降りて夕日に染まる街へ出ると、だいぶ日が長くなったと感じる。

これからの季節は仕事が終わってもまだ明るいから、ちょっと得した気分になるのよね。

残業したものの、比較的軽い足取りで駐車場へ向かおうとした時。



「今日はありがとうございました、椎名さん」



聞き覚えのある女性の声が紡いだ名前に反応して、私は足を止めた。

雑貨屋の前で、まるで恋人同士のように絵になる男女が話している。私の視線が捉えたその人物に、目を疑った。



「いや、こちらこそ」

「また……お時間を作っていただいても?」

「俺なんかで良ければ」



どうして、椎名さんが九条さんと会っているの──?

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