負け犬も歩けば愛をつかむ。
椎名さんは気を許したような笑顔を見せているし、話し方も仕事の時のような堅苦しさは感じない。

そんな彼を見上げる九条さんも、いつもの凛とした雰囲気は崩れ、しおらしくはにかんでいる。

こんな九条さんは見たことがない……専務といる時だってクールさを失わないのに。

彼女が椎名さんに、好意を抱いているのは明らかだ。


呆然と二人を目に映していると、椎名さんに頭を下げた九条さんがこちらに向かって歩き出す。

うわわわ、見つかる!

咄嗟に雑貨屋の陰に隠れたものの、彼らとの距離数メートル。しかもビルのエレベーターに乗るとしたら、私がいる方から回るしかない。

運悪く、その通りに雑貨屋の角を曲がってきた九条さんとご対面してしまった。



「あら……お疲れ様です」

「ど、どうも……」



私を見付けた彼女は、いつもの無愛想な顔で軽く会釈した。さっきまでの可愛らしい笑みはどこへ?

それにしても、今日もやっぱりTシャツにパンツスタイルの私と、気品漂うフェミニンな服装の彼女と並ぶとまさに月とすっぽん……。

彼女の方が年下なのに私がオドオドしてしまうのは、やっぱり自信の無さのせいなのだろうか。


……って、今はそんなことを考えている場合じゃない。

二人のことは気になり過ぎるけど、九条さんとは挨拶するだけで話したことなんてないし。

今来たばかりということを装って、ここは帰ろう!

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