負け犬も歩けば愛をつかむ。
□遠くて近きは上司と部下の仲
それからは作戦会議の日々だった。
休憩中や仕事が終わった後に皆で話し合い、メニューの候補をとにかくたくさん挙げていく。
その中から調理法や原価、見栄えなどを考慮して、難しいものを排除する消去法でメニューを絞っていくことにした。
近頃は椎名さんも時間を縫ってはよくスルスに来て、一緒に話し合ってくれている。
会う頻度が増えたのは嬉しいけれど、記念パーティーのことでいっぱいいっぱいで、私的な話をする余裕なんてない。
九条さんのこともずっと気になってるんだけどね……。
早くも六月半ばに差し掛かった今日も、まかないを食べながら会議中。
「やっぱ定番のローストビーフは外せないでしょ」
「水野くん作れるの?」
「おいおい、ナメんなよちづ。俺が過去クリスマスに何人の女子に振る舞ってきたと思ってんだ」
何故か威張る水野くんだけど、そこまで自信があるならやってもらおうじゃないの。
すると、すでに定位置となったデスクチェアに足を組んで座り、コーヒーを飲んでいた椎名さんが、何かを思い付いたように口を開く。
「ローストビーフを俺達が切り分けるサービスをしたらどう?」
「私達が……?」
「それいいじゃないですかぁ!」
私がその図を想像しようとする間にも、真琴ちゃんがぱんっと手を叩いて明るい声をあげる。