負け犬も歩けば愛をつかむ。
私、そんなにヒドい顔してる?

専務から顔を背けると、彼は淡々とイタい一言を口にする。



「椎名さんにフラれたか」

「……私じゃなくて別の人がだけど、似たようなもんです」



九条さんのような才色兼備な女性に迫られても、彼はなびかなかったのだ。私にチャンスがあるとは思えない。

元々少なかった自信がゼロになりそうで、専務と張り合う気力もなくなってくる。

どうせまたバカにされるんだろうな……と思っていると、彼は予想に反してぽつりと呟いた。



「あいつ、フラれたのか……」

「“あいつ”?」

「九条玲華なんだろ」



確信めいた言い方に少し驚く。今の情報だけで彼女だとわかるなんて、やっぱりただの仕事仲間というだけではなさそう。



「あの、専務と九条さんって、どういうご関係なんでしょうか……?」



きっとはぐらかされるだろうけど、聞くなら今しかないと思って聞いてみた。

すると、彼は私から目線を逸らし、雫が跳ね返るアスファルトを眺める。



「……別に、たいした関係じゃない」



さっきと同じ淡々とした口調でそう返した専務は、黒い傘を開いて灰色に濡れる街へと繰り出していった。


……何だろう、いつもの専務と少し様子が違う気がする。

どこが違うのか、はっきりとはわからないけれど、いつもの覇気がないような感じ。

まぁ、今の私は彼のことを気にしている場合じゃないんだけど……。


枯渇することのないため息を吐きつつ、私はエレベーターに乗って皆のもとへ向かった。

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