負け犬も歩けば愛をつかむ。

風邪のせいか、自分自身への失望のせいか、身体も気分も重くて仕方がない。

専務室から続く廊下の窓から見えるのは、昨日に引き続き黒い雲に覆われた空。



『彼の厚意も、君のこの一件で無駄になるかもしれないな』



専務の言葉が頭の中で何度もリピートされて、今日の空模様と同じく、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

でも、私のミスのせいで椎名さんに迷惑なんてかけられない。絶対に間に合わせないと──!


無理やり自分を奮い立たせて厨房に戻ると、なんとか平静を装っていつも通りに仕事をこなした。

今日は徹夜覚悟で残業しなきゃいけないのに、皆に心配をかけたら居残りづらくなってしまうから。



「千鶴ちゃん、本当に大丈夫?」

「無理しないでくださいよ~」

「大丈夫! もうちょっとで終わりにするから」



午後七時になるまで、明日の準備を手伝ってくれた園枝さんと真琴ちゃんに笑顔を見せる私。

休憩中も請求書作りをしていた私を見てか、皆は『事務があるならやってていいよ』と言ってくれて、今一時間ほどやっていたところだ。

本当ならもっと早く上がらせてあげたかったのに、気を遣わせてしまって申し訳ない。

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