負け犬も歩けば愛をつかむ。
「すみませんね、こんなに遅くまで。二人は待ってる人がいるんだから、早く帰らなきゃいけないのに」

「気にしないでいいのよ」

「そうそう。あんなヤツ、待たせときゃいいんだから!」



いまだに彼氏と和解出来ていないらしい真琴ちゃんは、彼の話題が出るとへそを曲げてしまう。

そんな彼女を園枝さんが宥めつつ、二人は帰っていった。

一方、水野くんはと言うと。



「さーて、俺はもうちょっと仕込みやってくかな」



二人を見送った後、そう言って一人厨房に戻り、ボウルや調味料を出し始めた。

水野くんも、私に気を遣って残ってくれてるんだよね……。その優しさが、じんわりと胸に染み渡る。


しばらく事務を続けていると頭がぼーっとしてきて、息抜きがてら冷蔵庫にあるお茶を取りに厨房の中へ入った。

ペットボトルに口をつけながら、ここの明かりに照らされる暗い食堂を眺めていると、水野くんが心配そうに私を見やる。



「どうかした? 具合悪い?」

「や……明日、ここに私達が考えた料理が並んで、大勢の人がそれを食べるんだなぁと思って」



パーティーはこの食堂と隣の休憩コーナーを使って、立食形式で行うことになっている。

来客を含めて百三十人ほどだそうで、普段より少し多いくらいだから、人数的には臆することはなさそう。

ただ、やっぱりお偉い様方が来る一大イベントという重圧と責任感は、普段と比べ物にならないほど大きい。

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