負け犬も歩けば愛をつかむ。
仕事中の春井さんは、まだ異動して間もないにもかかわらず、自分のやるべき事を把握しきびきびと動いていて、“出来る人だな”という印象。

でもひとたび素に戻ると、少し抜けたところがあったり、褒めると恥ずかしそうにしたり、とても可愛らしい女性だ。

うちのような会社には、ハタチそこそこの若い子かパートのおばさんが多く、中間の年齢の女性社員があまりいない。

そのせいか、歳の近い春井さんと接すると不思議とホッとした気分になっていた。


そう、初めは歳が近いからだと思っていたんだ。

この安心感や、心が暖かくなるような感情を抱くのは。

──しかし。



『椎名さんって、真面目で誠実で、人のために動くのも惜しまないじゃないですか』

『私なんかより、椎名さんの方が素敵だけど……』

『椎名さんがいなきゃダメなんです!』



春井さんが俺に特別な感情を持っているわけではないとわかっていながらも、彼女のストレートな言葉には心が揺さ振られた。


彼女に会うと、その和やかな雰囲気に癒されて、ひたむきに働く姿に元気をもらって、笑顔を見ると嬉しくなる。

誰かからこんなに力をもらっていると実感するのは久々で、だからこそすぐに気付いたのだ。

こんな気持ちになるのは、ただ歳が近いからという簡単な理由ではない──と。

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