負け犬も歩けば愛をつかむ。
会食が進むにつれ、私にも周りを観察する余裕が出来てきた。

料理が空にならないよう注意しながら、空いたグラスやお皿を回収して厨房に運び、新しいものを用意するのも焦らずに行えるようになってきたし。



「こちらお下げしてもよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」



ふふ、なんかサマになってない?私。

ウェイトレス気分で両手に重ねたお皿を持ち、会場を歩いていると。



「ねぇ、あのたまにスルスで見かける人、いつものスーツ姿も素敵だけど今日も一段とカッコいいね!」

「それがね!? さっきあたしがつまづいて転びそうになった時、偶然近くにいた彼が咄嗟に支えてくれたの!」



そんな黄色い声が聞こえ、私は反射的にバッと顔を向けた。

上品なパーティードレス姿の若い女の子二人が、頬を桃色に染めつつ椎名さんのことで盛り上がっている様子。



「あの逞しい腕と、『大丈夫ですか?』って囁くハスキーボイス……もうドキドキキュンキュンしちゃった~!!」

「なに一人でそんなオイシイ体験してんのよ!? ズルい、あたしも転ぶ!」



やめーい!!

思いっきり眉間にシワを寄せた私は、思わず声に出してつっこんでしまいそうになる。

そんな体験、私だってしたいわよ!


そりゃあね、紳士的で素敵な、若い男には醸し出せない大人の色気を漂わす彼にクラッときちゃうのもわかるけど。

やっぱり他の女子が彼に熱い視線を送っているのはいい気がしない。

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