負け犬も歩けば愛をつかむ。
それから、ホール業務の合間に菅原さんのお悩み相談に乗るハメになってしまった私達。
料理が減るペースも遅くなり、だいぶ余裕が生まれてきたから出来ることなのだけれど。
「最近彼の帰りが遅いの……。絶対他の女の子と遊んでるに違いないわ。彼が取引先の社長の息子だからって、お父様に言っても『お前の思い過ごしだ』って、まったく取り合ってくれないし……。もうすぐ結婚するっていうのに~~」
悲劇のヒロインよろしく、さめざめと泣く菅原さんは二十ニ歳にして彼と婚約し、すでに一緒に暮らし始めているらしい……さすが勝ち組。
「うんうん、辛いよねぇ。わかるよ~その気持ち」
「本当!? わかってくださる?」
飲み物やグラスの片付けをしていた真琴ちゃんが、いつからか話を聞いていたらしく飛び入り参加して、なんだか二人は意気投合している。
専務はきっと腹の中では“仕事に集中しろ”と思っているに違いないけれど、菅原さんの方からすがられている状態のため、渋々黙っているしかないようだ。
メルベイユの取引先の常務だという彼女の父も、遠くで談笑しているみたいだし。
「でも、帰ってくるのが遅いってだけじゃ本当に浮気してるかはわからないでしょ? 他に思い当たる原因はないの?」
「他に原因なんて……」
真琴ちゃんに慰められつつ考えを巡らした菅原さんは、何かを思い出したように「あっ」と小さく声を上げた。