負け犬も歩けば愛をつかむ。
険しくしていた表情がふっと緩んだ菅原さんに、水野くんはローストビーフを一切れお皿に乗せて差し出す。



「俺の自信作。食べてみ?」



ほれほれ、と催促された彼女は、戸惑いながらもテーブルにワイングラスを置き、一緒に渡された箸で綺麗な赤い色のお肉をお上品に一口かじった。

もぐもぐと口を動かした彼女は、ほんの少し目を開き、小さな小さな声で呟く。



「……美味しい」



その一言に、満足げな笑みを浮かべる水野くん。



「だろ? 愛情込めて作ってるからだよ」

「そう、ね……この間は、あなたが作った料理に酷いこと言って悪かったわ」



バツが悪そうに目を逸らしたまま謝る菅原さんに、水野くんは一瞬キョトンとする。

そして、悪戯っぽくニヤリと口角を上げた。



「わかりゃいーんだよ」

「どうして上から目線なのよ! やっぱり気に食わないわ、あなたみたいなお猿さんは」

「誰が猿だ、飲兵衛のお嬢め!」



あーあ、やっぱり始まった……。

でも、笑いながら言い合う二人には明らかに険悪なムードは感じず、仲良くなったことが一目でわかる。

それに安堵して再び仕事に戻ろうとすると、同じく様子を見ていた専務と目が合った。



「……まったく、血の気が多いな彼は」

「でも、あのコ案外いいこと言うでしょう。料理の腕も確かだし、菅原さんも納得したみたいだし。今回はお咎めナシですよ?」



フンと鼻であしらわれたものの、ローストビーフを完食したお皿を渡された私は、素直じゃない専務に笑ってしまうのだった。


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