負け犬も歩けば愛をつかむ。

会も終盤に差し掛かり、洗浄をしてくれていた細長さんの手伝いをしつつ、私は厨房と食堂とを行き来していた。

休憩コーナーで飲み物を配っている園枝さん達の様子を見に行くと、ローストビーフが完売御礼となり、片付けを手伝っていた水野くんもいる。

飲み物をもらいに来る人の波もだいぶ落ち着いたようだ。



「ワインがちょっと余っちゃったわね」

「菅原のお嬢に飲ませるか」

「涼ちゃんすっかり仲良しさんじゃん! でもあたしも意外と気が合いそう」

「さすがは浮気される者同士だな」



真琴ちゃんの鉄拳が水野くんの脇腹を直撃した時、食堂から椎名さんがやってきた。

たくさんのグラスや食器を乗せたトレーを軽々と片手で持つ彼。その容姿といい、仕草といい、どこから見てもイケメンウェイターだ。

うっとりした私の視線にはまったく気付いていない様子の彼は、私達に声を掛ける。



「皆、お疲れ様。これから社長がもう一度挨拶するみたいだから、一旦来てくれる?」

「はい」



皆で食堂に入ると、血行の良くなった顔で上機嫌に笑う社長が壇上にいる。

社員と来賓の方々もなんだなんだと注目し始め、四方八方に散らばっていた人々は食堂の中央に集まった。



「社長の挨拶って、二度もやる予定でしたっけ?」

「いや、なんかお酒が入ったら色々と語りたくなったみたいだよ」

「へぇ……」



椎名さんの隣に立ってあいづちを打つ私は、昼間聞いた社長と専務との話を思い出していた。

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