負け犬も歩けば愛をつかむ。
「ありがとね、涼太くん」



一瞬キョトンとした彼は、「ちづ、やっぱ俺と結婚する?」なんて、ふざけたことを言う。

園枝さんも交えていつものように冗談を言い合っていると、幸斗さんが戻ってきた。



「さて、じゃあ帰りますか!」

「俺と千鶴は寄ってく所があるから」



水野くんと園枝さんにそう声を掛ける幸斗さん……だけど。

寄ってく所なんてあったっけ?


ぽかんとする私をよそに、二人はニマニマしながら「じゃあお先に」と、そそくさと帰っていく。

不思議そうに幸斗さんを見上げると、彼はにこりと微笑んで再び私の手を取る。



「行こう」

「あ、うん……?」



行くってどこへ?

ハテナマークを浮かべ、手を引かれるまま歩いていくと、式場の外ではなく中庭へ出た。

真っ青なプールが中央に広がるガーデンは、沈む夕日に照らされてロマンチックな雰囲気を醸し出している。

式場を後にする招待客の喧騒から少し離れたここは、静かでとてもムーディーだ。



「きれい……」



ぽつりと呟くと、ウッドデッキの中央で足を止めた彼が振り向き、私と向き合う。

夕日に染まるその表情がなんだかとても真剣だから、胸がドキンと鐘を鳴らすように響いた。

そして、彼が口を開く。



「実は俺、今度エリアマネージャーに昇格することになったんだ」

「わ……本当に!? おめでとう!!」

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