負け犬も歩けば愛をつかむ。
その朗報に、大人気なく飛び跳ねてしまいそうになる私。

やっと彼の頑張りが認めてもらえたんだ……嬉しい! 本当によかった。



「これで少しは格好がつくかな」



喜ぶ私を見て笑いながらそう言った彼は、何やら左の手の平を上に向けて私に差し出す。



「はい、お手」

「へ? お手!?」



突然の謎の行動に“なぜ犬扱い!?”と戸惑いながらも、言われた通りに左手を彼の手の上にちょこんと乗せた。



「君が前、首輪が欲しいって言ったこと覚えてる?」



そう言われ記憶を辿ってみると、たしかパーティーの前に二人で残業していた時、プロポーズの話になってそんなことを言った気がする。

所有者がいるっていう証の首輪みたいな、確証になるものが欲しいって。



「あぁ……そういえば。なんか今思うとおバカな回答ですよねぇ」

「あげるよ、首輪」

「え?」



クスッと笑いを漏らした彼は、ポケットに入れていた右手を出す。

見下ろすと、彼の手には夕日を受けて目が眩むほどに輝くものが。



「これが、“君は俺のものだ”っていう証」



左手の薬指に、オレンジ色の輪が嵌められた。

目の錯覚? ……違う。

ちゃんと、小振りなダイヤが埋め込まれたシルバーの指輪がここにある。



「ゆき、とさん……」



上手く言葉が出ず目線を上げると、彼は照れたようにはにかみ、「本当に首輪をあげるわけにはいかないからね」と笑った。

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