負け犬も歩けば愛をつかむ。
すると、水野くんが「簡単じゃん」と言って、腕組みをして寄り掛かっていた時計台から背中を離す。



「ちづだけ待ってればいいんだよ。俺ら先に行ってるからさ」

「えっ、私だけ!?」

「うん、それがいい! だってもう予約の時間になっちゃうし、誰かは先に行ってなきゃいけないもん」



「ねー」と小首をかしげる、息ぴったりの水野くんと真琴ちゃん。と、それに便乗する園枝さん。



「そうとなったら早く行きましょう! 待ってるから、ちゃんと彼をご案内して差し上げてね♪」

「えー! ちょ、ちょっと……!」



わたわたしている私をほっぽって、三人はスキップしそうな勢いで駅前の横断歩道に向かって歩いていく。

こういう時の彼らの一致団結っぷりはお見事だ。

仕方なく、私は椎名さんが降りてくるだろう階段の前に移動することにした。



……なんだか、初デートの待ち合わせでもしているような気分。

ドキドキそわそわしながら、椎名さんらしき人が来ないかと何度も階段を見上げてしまう。


その時、私の横に立っていた学生らしき女の子が、誰かを見付けて手を振り始める。

その子のとびきり嬉しそうな顔を見れば、相手が誰かなんて一目瞭然で。

予想通り、彼氏らしき男の子が来ると、しっかり手を繋いで歩いていった。


あーいいなぁ、青春って感じよね。あの若さと、醸し出されるピンク色の空気が羨ましい……。



「春井さん?」

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