負け犬も歩けば愛をつかむ。
「春井さんって案外おっちょこちょい?」

「慣れないオシャレをしたからです……たぶん」



正直に言うと、椎名さんは笑いながら器用にタグの紐を弄る。

幸い簡単に取れるタイプだったそれは、彼の手ですぐに取り外された。



「はい。もう大丈夫」

「ありがとうございます……」



まだまだ恥ずかしさは消えず、顔を赤くしたままちらりと椎名さんを見上げると、彼はもう特に気にした様子もなく「行こうか」と言う。

そうだった、皆を待たせてるんだもんね。

こくりと頷いた私は、案内をするべく歩き出した。



「……なんか、椎名さんといると自分が子供になったような気がする」



駅前の賑やかな通りを歩きながら、苦笑とともにそんな言葉を漏らした。

この間帽子を被り直された時と言い、いい歳して世話を焼かれる子供のようで、ちょっと情けなくなる。

隣を歩く椎名さんは、少し笑って意外そうに言う。



「なんで。俺、子供扱いしてる?」

「そう感じる時ありますよ」

「そうか? ……あぁもしかしたら、歳の離れた妹と、姉の子供で小さい姪っ子がいるからそのせいかな」

「そうなんですか……!」



椎名さんって、女の人に囲まれて育ったんだ。

お姉さんに虐げられ、妹さんに甘えられ。それに健気に尽くす……という彼の姿を勝手に想像してしまい、思わず笑いが込み上げる。

彼がとても優しい性格になった理由がわかるような気がした。

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