負け犬も歩けば愛をつかむ。
■据え膳食わぬは女の意地
その日、私は定時の五時を過ぎても「まだ発注があるから」と嘘をついて、皆が帰るまで休憩室に残っていた。
椎名さんと二人で食事しに行くだなんて言ったら、絶対また皆がうるさくなるのは目に見えている。
だから、今回は誰にも内緒で行くことにしたのだ。
本社で会議がある椎名さんは、六時頃にはこちらへ戻って来れるだろうと言っていたから、待っている間メイクや髪型を直していた。
ただ、どれだけ頑張ってもカジュアル過ぎる私服は直しようがない。
一旦家に帰れればいいけれど、そこまでの余裕はなさそうだし……もう仕方ないわね。
だって、急にこんなことになるとは思わないもの!
今度から通勤用の服装ももう少し気を遣った方がいいかな。いつ椎名さんと会うかもわからないし。
……って、私浮かれてる場合じゃないよ。肝心なことを今思い出した!
色々なことがあってすっかり忘れていたけれど、椎名さんには好きな人がいるかもしれないんじゃない!
「しまったぁ~……!」
これでその“小雪さん”の話とかされたら、きっと惨めな思いをするだけだ。
あぁぁテンション激下がり……。
頭を抱えた滑稽な姿が、ロッカーに付けられた鏡に映る。
……でも、まだ本当に好きな人がいるって決まったわけではないし、今日はそれを確かめるいい機会よね。
よし、そこんとこハッキリさせてやる!
なんとか気合いを入れ直した私は、勢い良くロッカーの扉を閉めた。