負け犬も歩けば愛をつかむ。
それでも、これから過ごす二人きりのひと時を思うと勝手に胸が弾んでしまう。

そわそわしながら、六時になる少し前に一階の雑貨屋へと向かった。ここで待ち合わせているから、彼が来るまでぶらぶらしていよう。


店内は仕事帰りらしき女性客で適度に賑わっている。

皆オシャレで可愛いな……最近はあぁいうファッションが流行ってるのか、へぇー。

すれ違う女性を観察しつつ勉強していると、同時に彼女達から漂ういい香りが鼻を掠める。



「いい匂い……あ、そうだ!」



いけない、忘れてた。自分じゃもうわからなくなっているけど、調理の仕事をしていると結構匂いがついちゃうのよね。

私はフレグランスのコーナーへ足早に移動し、そこにある香水の試供品を品定めし始める。

今日だけはこれでごまかそう!



「どれにしようかなぁ」



何コレ、“セクシーな甘い香りで彼を誘惑”?

黒と紫の、女性の身体の形をした妖しげなボトルの香水に書かれた宣伝文句が目につく。

別にこれをつけたいわけじゃないけれど、とりあえず匂いを嗅いでみるかと、試供品を手に取ると。



「君にはこれの方が合うんじゃない?」



突然、耳元で艶のある低い声が流れるように響く。

驚いて振り向くと、涙型で半透明のピンク色のボトルを手にした予想だにしない人物が、私のすぐ隣に立っていた。

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