負け犬も歩けば愛をつかむ。
「椎名さん! お疲れ様です」

「お待たせ」



嬉しさを隠しきれていない笑顔で椎名さんに駆け寄ると、彼もふわりと微笑んでくれた。



「今そこで専務と会ったよ」

「あぁそうなんです、さっき……」



“私に失礼なことばっかり言って勝手に香水を付けていきました”とは言えず、「私も会いました」とぎこちなく笑いながら言うだけに留めておく。

それよりも今は椎名さんとのことに集中!



「どこ行きましょうかね」

「何かリクエストある?」

「うーん、どこでも……」



“お酒が飲める所なら”と言いかけて口をつぐむ。

こういう時“どこでも”って答えは一番困るのか。おおまかでも選択肢を挙げた方がいいんだっけ?

しかもそんな酒飲みっぽいことは言わない方がいいわよね?

ヤバい、男の人と二人で出掛けることなんてここ数年なかったから、デートの心得を忘れている……。



「春井さん?」

「あっ、えぇと……なんとなく和食な気分かな~」



へらりと笑いつつジャンルを絞ってみると、椎名さんは「和食で酒が飲めるとこか……」と言いながら、少し考えるように目線をさ迷わせた。



「じゃあ、面白いお店があるから行ってみようか」

「面白いお店?」



首を傾げる私に笑いかけた彼は、そっと私の背中に手を当てて、雑貨屋を出るよう促した。

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