負け犬も歩けば愛をつかむ。
オレンジの照明にほんのり照らされた、ほの暗いバーのような雰囲気の店内。
カウンター越しにいるのはバーテン……ではなく、黒子のような格好をしたおじさん店員だ。
「由尾さん、大根と牛すじ頂戴」
「あいよっ」
由尾(ヨシオ)さんというらしい、威勢がいいそのおじさんに椎名さんが頼んでいるのは“おでん”だ。
私は彼の隣でふーふーしながら、よく煮込まれた卵にかじりつく。
椎名さんの愛車である黒のミニバンに乗り込み、やってきたのは“おでんBar”という名の居酒屋。
モダンな雰囲気の店内でおでんを食べるというのが、たしかに面白い。でも味は絶品!
「ん~おいひ~」
「酒が合うだろ?」
「とっても!」
飲めないのが残念だよ……としょんぼりする椎名さんに苦笑し、悪いと思いながらも梅酒を堪能する私。
少しお酒が入ると緊張も解れて、しばらく彼との世間話を楽しんでいた。
それでもやはり頭から離れないのは今日の専務のこと。
「専務があんなこと言う人だなんて思わなかったな……」
「んー、ちょっと意外だったな」
「ですよね?」
あーなんか思い出したらまたムカムカしてきた。
「私だって、水野くんはチャラいしおバカだとは思うけど、愚かだとか低俗だとか、あそこまで嫌味なこと言わなくたっていいじゃない!」
勢い余ってドンッ!とグラスを置いた私を、椎名さんが少し驚いたように横目で見やる。